|
|
まずはじめに、塩崎さんが漆器プロダクトデザイナーになられた経緯を教えてください。
もともと祖父の代まで、和歌山県那智地方で材木商を営んでおり、伯父の代に京都で塩崎商店(後になちやと改名)という漆器の卸業を始めたのが、漆器を生業にするようになったきっかけです。
私はといえば、武蔵野美術大学で工芸工業デザインを学び、卒業後、松下電器(現在のパナソニック)にてエアコン、ビデオカメラなどのデザイン開発をしていたのですが、その伯父が子供を作らなかったことなどの理由から、塩崎商店の跡継ぎとして松下電器を退社しました。
漆器を生業とするにあたり、漆器文化が現在のライフスタイルとは合わず、どんどんと縮小、衰退していくことに危機感を感じ、大学、松下電器とデザインに携わった経験から、今までにない新しい漆器をプロデュースしなければと想いました。
天然木の漆塗りといった伝統製法にこだわりつつも、既存のデザインにとらわれない新しいかたちを世に送り出すことで、何千年と続く漆器文化を守っていければと、強く想うようになりました。
もう一つは、やはり漆器は使っていただいてなんぼのもの。食洗機で洗えなかったりと、楽で便利という時代の流れからは取り残されています。
そんな中、MR精製法という画期的な漆の精製法が開発されたことを知り、この製法で生み出されたMR漆は従来のものより大幅に熱やキズなどに強く、食洗機での洗浄も可能です。
オリジナルデザインの漆器はこの漆を積極的に取り入れ、手入れが簡単な食洗機対応の漆器がメインです。発売以来6年、大勢の方々のご支持も賜り、お陰様で大変好評を頂いております。
ただこの漆は塗るのが大変難しく、漆器業界全体ではまだまだ極くわずかなものですが、今後大いに可能性を感じます。
なるほど、ではそんな想いを寄せられる漆の魅力とは何でしょうか?
漆とは考えられている以上に古いもので、一説によれば漆を使った塗り物は、9千年も前から日本で作られていたそうです。
それは現在みつかっている漆の塗り物のどれよりも古いもの。そんな古くから日本人のDNAに刻まれている漆には、他の塗料にはない艶や深み・ぬくもりといったものがあり、とても魅力を感じます。
また漆を採取することを、漆を掻くといいますが、すべて手作業のため大変手間隙がかかり重労働。そんなためか後継者不足で、脈々と培われ続けてきた文化が廃れつつあります。
しかしそんな現状の中、天然の優れた塗料として漆が見直されてきました。
世界規模でCO2を減らさなければならないというエコロジカルな考えが叫ばれる昨今。
数ある塗料の中でも、そのほとんどを占めている石油原料の塗料は、その生産から廃棄に至る過程で大量のCO2を排出し、CO2を増やし続けています。
その点、漆の木の樹液である漆はCO2を排出しないどころか、漆の木の光合成により、CO2を吸収し酸素に変える数少ないエコロジーな塗料だということが、もっとも今のニーズにあった、それでいて延々と培われてきた、大切に守らなければならない伝統だといえます。
漆器を作り続けることで、地球環境に少しでも役立てば、とても素晴らしいことだと自負しております。
最後に今後の展望をお聞かせください。
少し前まで、家具など食器以外にも漆を使った商品開発を考えていましたが、やはり高額なものとなり、なかなか受け入れてもらえないと思います。
この世界同時不況といった環境の中、経営者として何よりも会社を継続していくことに、全身全霊を注いでいきたいと考えています。
今ある現状では、なかなか夢を語ることも、現実にすることも難しいですが、漆文化を後世に残していくことに微力ながら貢献できればと考えております。 |
食洗機対応の漆器をプロデュースするなど、扱いづらいと言われる漆器を現代の食卓に蘇らせるべく日々努力をされている。名入れ椀はプレゼントとしても人気。インタビューページへ |
|
|
|
|